【第142回】メルケル独首相からのメッセージ(その1)

~ OECDキー・コンピテンシーとは? ~


OECDが行っている国際的学力調査PISAでは「キー・コンピテンシー(主要能力)」を定義しています。
①社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力 (個人と社会との相互関係)
②多様な社会グループにおける人間関係形成能力 (自己と他者との相互関係)
③自律的に行動する能力 (個人の自律性と主体性)
「変化」、「複雑性」、「相互依存」に特徴付けられる世界への対応の必要性を背景とし、個人が深く考え、行動することの必要性を求めています。深く考えることには、目前の状況に対して特定の定式や方法を反復継続的に当てはまることができる力だけではなく、変化に対応する力、経験から学ぶ力、批判的な立場で考え、行動する力が含まれます。

具体的にはどのような能力を指しているのでしょうか?前回紹介した4/12東京大学入学式で上野千鶴子氏(東大名誉教授・NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長)が行った祝辞では、次のように述べています。ここにヒントがありそうです。
「あなたたちの頑張りを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください」「あなた方を待ち受けているのは、これまでのセオリーが当てはまらない、予測不可能な未知の世界です。これまであなた方は正解のある知を求めてきました。これからあなた方を待っているのは、正解のない問いに満ちた世界です。多様性がなぜ必要かと言えば、新しい価値とはシステムとシステムのあいだ、異文化が摩擦するところに生まれるからです」「未知を求めて、よその世界にも飛び出してください。異文化を怖れる必要はありません。人間が生きているところでなら、どこでも生きていけます。あなた方には、東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でも、どんな世界でも、たとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい。大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています。知を生み出す知を、メタ知識といいます。そのメタ知識を学生に身につけてもらうことこそが、大学の使命です」

また、5/30米ハーバード大の卒業式で行ったドイツのメルケル首相のスピーチは、当時トランプ米大統領と米政権を痛烈に批判する内容としてマスコミに取り上げられました。しかし、その内容は、「希望の6か条」を次世代に託す、とても示唆に富んだ内容です。OECDのキー・コンピテンシーとは何か知る一つの糸口になりそうです。

メルケル氏は1954年に生まれ、生後間もなくドイツ民主共和国(東ドイツ)に移住しました。カールマルクス・ライプツィヒ大学で物理学を専攻し、物理学者になります。そして、1989年ベルリンの壁が崩壊。東西ドイツは統一され、冷戦時代に幕を閉じました。そして、2005年からドイツ歴史上初の女性首相を務めています。彼女のスピーチは、ドイツの作家ヘルマン・ヘッセの「すべての物事のはじまりには不思議な力が宿っている。その力は私たちを守り、生きていく助けとなる」という言葉の引用から始まります。

次回、スピーチの内容をご紹介したいと思います。


トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

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【第141回】人工知能は人間を偏見や差別から解放してくるのか?

~ 東大入学式の祝辞を聞いて ~

【第141回】トゥルースの視線

今年4月12日東京大学入学式で上野千鶴子氏(東大名誉教授・NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長)が行った祝辞が賛否両論含め話題となりました。


一連の医大入試における女子学生と浪人生の差別に触れ、各種データにより女子受験生の偏差値の方が男子受験生よりも高いことが証明されているのにも関わらず、東大では女性比率が「2割の壁」を越えていないこと、4年制大学進学率が女子の方が7%も低いことを指摘しています。そして、「これまであなたたちが過ごしてきた学校は、タテマエ平等の社会でした。偏差値競争に男女別はありません。ですが、大学に入る時点ですでに隠れた性差別が始まっています。社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています。東京大学もまた、残念ながらその例のひとつです」と述べ、「あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください」と入学者に厳しい言葉を投げかけます。

2018年12月に世界経済フォーラムが発表した経済・教育・健康・政治の4分野のデータから各国における男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」において、日本の順位は149か国中110位であることを考えると、様々な発言で物議をかもしてきた上野氏ですが、氏が指摘する日本にまだまだ残る男女差別の現状は極論と言うことはできません。日本が解決しなければならない、重要な問題の一つです。

男女差別だけではなく、世界には人種差別、民族差別、宗教差別、障害者差別、年齢差別、学力差別…多種多様な差別が存在します。「偏見(バイアス)」が差別を生みます。私たちの心には、自分でも気づかない「偏見」が存在しているのではないでしょうか? 当然、私自身の心にも。ある特定の社会や文化、生活習慣、人種、民族の中で育っている限り、偏見からは逃れられないような気もします。では、人工知能(AI)に様々な判断を委ねれば、偏見から解放されるのでしょうか?

2017年の世界的講演会「TED Conference」で、キャシー・オニール氏(ハーバード大学で数学の博士号を取得。 バーナードカレッジ教授を経て企業に転職し、アルゴリズム作成などに従事)は、「アルゴリズムを作るときに必要なものが2つあります。データすなわち過去の記録と、人が追い求める『成功』を定義する基準です。そして、観察と理解を通してアルゴリズムを訓練します。 アルゴリズムに成功と関係する要素を理解させるためです」と切り出します。彼女自身が料理するときの成功の基準は、子供たち野菜を食べることであることを例とし、「アルゴリズムとはプログラムに書き込まれた『意見』なのです。人々はアルゴリズムが客観的で正しく科学的なものと思っていますが、それはマーケティング上のトリックです」と警告します。

具体例として、ある大企業が人材採用プロセスを機械学習アルゴリズムに変えたら、まず女性は除外されるだろうと推測しています。なぜなら過去において女性が社内で活躍してきたようには見えないから。米国の多くの市町では深刻な人種差別があり、警察の活動や司法制度のデータが偏っている事実があり、「再犯リスク」アルゴリズムでは同じ犯罪でも黒人の方が白人よりも危険度が高く評価され、結果として刑期が長くなる傾向があるというのです。

オニール氏は、「バイアス(偏見)があるのは私たちで、どんなデータを集め選ぶかによって、そのバイアスをアルゴリズムに注入しているのです」と言います。そして、『アルゴリズム監査』の必要を説き、「私たちデータサイエンティストが真実を決めるべきではありません。私たちはもっと広い社会に生じる倫理的な議論を解釈する存在であるべきです。この状況は数学のテストではなく政治闘争なのです。専制君主のようなアルゴリズムに対して、私たちは説明を求める必要があります。ビッグデータを盲信する時代は終わらせるべきです」と。

人工知能は『倫理問題からの解放』カードを私たちにくれたりしません。つまり、私たちは人間としての価値観や倫理感をよりしっかり持たねばなりません。
― ゼイナップ・トゥフェックチー(テクノ社会学者、ハーバード大学バークマン・センター准教員) ―


トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

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【第140回】PISAの大人版「国際成人力調査(PIAAC)」②

~ ITを活用した問題解決能力は? ~

【第140回】トゥルースの視線

前回、OECDが16歳以上65歳以下の成人を対象行ったPISAの大人版「国際成人力調査(PIAAC)」の、「読解力」と「数的思考力」の結果についてご紹介しました。今回はもう一つの分野「 ITを活用した問題解決能力」の結果をご紹介したいと思います。「ITを活用した問題解決能力」は、情報を獲得・評価し、他者とコミュニケーションをし、実際的なタスクを遂行するために、デジタル技術、コミュニケーションツール及びネットワークを活用する能力と定義しています。調査は原則として、パソコンを用いたコンピュータ調査により行われるがますが、以下の場合には、紙での調査を行います。①背景調査において「コンピュータを使った経験がない」と回答した場合 ②コンピュータ調査を拒否し、自ら紙調査を希望した場合 ③コンピュータの導入試験(ICTコア)で「不合格」となった場合。なお、紙調査の場合ITを活用した問題解決能力の調査は行いません。

結果を見ると、日本は、コンピュータ調査ではなく紙での調査を受けた者の割合が36.8%とOECD平均の 24.4%を大きく上回っています。コンピュータ調査を受けなかった者も母数に含めたレベル2・3の者の割合で見ると、OECD平均並み。一方、コンピュータ調査を受けた者の平均点で分析すると、日本の平均点は294点であり、 OECD平均283点を大きく上回り参加国中第1位、60~65歳を除いた全年齢層でOECD平均より高い結果となっています。ただし、16歳~24歳は僅差でしかありません。

問題は、全体のテストをパソコンで受験が可能かを判定する事前テスト(ICTコア)の不合格率は24カ国中最高(10.7%)、パソコンによる回答を拒否した割合が3位(15.9%)だったということです。また、パソコンを使えても、25歳~39歳をピークに、それより若い人たちのスキルが低く、その年齢を超えると下がる一方となっています。レベル3の問題(日本は3位)は、パソコンを使う職場では最低限のスキルだと思われますが、日本人のわずか8.3%しかクリアできていません。そのことから、次のように指摘する人もます。

●パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいない。

●65歳以下の日本の労働力人口のうち、3人に1人がそもそもパソコンを使えない。ITを活用できない層が多いという特徴がある一方で、 ITを活用できている層では習熟度が高いという二極化の傾向を示しているのではないでしょうか?PIAACでは、3分野のスキルの直接測定だけでなく、成人のスキル発達の状況、スキルの使用状況、労働市場への参加状況や健康状態、社会的活動等への参加等の背景情報も併せて調査されました。そこで指摘されるのが、以下の点です。

●日本では、読解力・数的思考力のいずれも、低い学歴でも高い習熟度を示す国として特筆されており、学歴の違いによる習熟度の差が小さい傾向が見られた。

●情報処理系スキルに関して、日本は職場での「読解スキル」と「筆記スキル」の使用頻度がOECD平均 より高く、「数的思考スキル」「ICTスキル」「問題解決スキル」の使用頻度がOECD平均より低いという特徴が明らかとなった。

●日本は、自分の学歴と比べて仕事で必要とされる学歴の方が低いと回答した割合が31.1%であり、OECD平均(21.4%)を上回り、最も高い国の一つであった。逆に、仕事で必要とされる学歴の方が高いと回答した割合は8.0%で、OECD平均(12.9%)を下回り、低い国の一つで あった。

特に3点目は、仕事で求められるスキルと自分のスキルが合わない状態で就業するという「スキルミスマッチ」や「スキルギャップ」という問題です。この点について、「仕事で求められる学歴よりも自分の学歴の方が高い人 はスキル習熟度の点数が低く、その学歴の人が本来持つべき習熟度を持っていない」との指摘もあります。もはや「勉強ができればいい、いい大学に入ればいい」というだけの時代は終わりました。今の教育の目的は、「学習者が何をどのように学ぶのか?何ができるようになるのか?」にあります。2000年にTruthが受験指導からSTEM教育に切り替えたのも、まさにこの理由によるものです。


【参考文献】

「PIAACから読み解く近年の職業能力 評価の動向」深町珠由 (労働政策研究・研修機構副主任研究員)

「OECD 国際成人力調査調査結果の概要」 (文部科学省)


トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

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【第139回】PISAの大人版「国際成人力調査(PIAAC)」①

~ 日本人の読解力と数的思考力が危機!? ~

【第139回】トゥルースの視線

OECD(経済協力開発機構)が行う国際的な学力到達度調査「PISA(ピザ/ピサ)」が現在先進国の子供たちに求める学力であることは、既に常識となっています。直近の2015年の結果では、科学的リテラシーが2位、数学的リテラシーが5位、読解力が8位でした。視線132回・133回でご紹介した「東ロボくん」プロジェクトを行った国立情報学研究所教授・新井紀子教授は、読解力について次のように警鐘を鳴らしています。「2000年から6回連続でトップ10入りしています。ただ、この数字を過信しないでください。日本は世界にも稀に移民の少ない国です。日本で生まれた日本語を母語として育つ子どもの割合が極めて高い。移民の多いドイツやフランスなどに比べて読解力が高い、というのは数字のマジックに過ぎないからです」と。そして、全国読解力調査を行い、3人に1人が教科書を読めない(内容理解を伴わない表層的な読解もできない)という結論に達しました。

実は、読解力の危機は子供に限ったことではないのです。

PISAは15歳を対象としていますが、大人版のPISAとも言うべき「国際成人力調査」(PIAAC/ピアック)の第1回調査をOECDは2013年に行いました。OECD加盟国等24か国・地域が参加し、16歳~65歳までの男女個人を対象として、「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」及び調査対象者の背景(年齢、性別、学歴、職歴など)について調査。OECD各国では、経済のグローバル化や知識基盤社会への移行に伴い、雇用を確保し経済成長を促すため、国民のスキルを高める必要があるとの認識が広まっています。そのような中でPIAACは、スキルの向上に対する教育訓練制度の効果などを検証し、各国における学校教育や職業訓練など今後の人材育成政策の参考となる知見を得ることを目的としています。

結果は、読解力・数的思考力が1位、ITを活用した問題解決力が10位でした。これを見ると、日本の大人は国際的にも非常に優秀であることは間違いありません。また、読解力ついては、5段階中レベル3・4の者の割合が参加国中最も多く、2以下の者の割合は最も少ない。レベル5の割合も5番目に多い。レベル1以下が10%未満であるのは参加国中日本のみ。数的思考力は、レベル3・4の者の割合が参加国中最も多い一方、レベル2の者の割合も2番目に少なく、レベル1以下の割合は最も少ない。レベル5の割合は7番目に多い。1以下の者の割合が10%未満であるのは、参加国中日本のみ。というように、中間層の厚さが目立ちました。これは世界に誇れる教育水準の高さに起因しているように思います。

しかし一方で、読解力と数的思考力は、ホワイトカラーの仕事(専門職)にはレベル4以上が必要とされています。高度な知的作業ができるスキルをレベル5とするならば、日本におけるその割合は読解力で1.2%(OECD0.7%)、数的思考力で1.5%(OECD1.1%)しかいません。一方、レベル3以下だとオフィスワーカーに必要なスキルに達していないとされます。その割合は76.3%(OECD87%)になります。このことから次のようなショッキングな指摘もあります。

・日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない。

・日本人の3分の1以上が小学校3~4年生の数的思考力しかない。

さらに深刻なのは、読解力と数的思考力で確かに1位ですが、年齢別の得点を見ると、16~24歳の数的思考力ではオランダとフィンランドに抜かれて3位に落ちるという事実です。これからの日本を担う若者たちの実情を考えると日本の行く末を案じる気持ちも分からなくありません。

トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

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【第138回】世界の教育をリードする教育展示会「BETT」見聞録②

~教育はどのような未来に進んでいくのか?~

【第138回】トゥルースの視線

日本でもそうですが、「little Bits」に似た電子ブロック系の教材も種類が豊富になりました。小学低学年でも扱いやすい大きいブロックを使ったり、レゴと組み合わせられたりするものもいくつかありました。これまでこの学年の子は電子ブロック系ですと工作が大変でしたが、レゴと組み合わせることにより、これまでよりずっと表現しやすくなると思います。一方9年前は大きなブースを構えていたレゴエデュケーションですが、今回は単独のブースを構えていませんでしたが、いくつかの代理店のコーナーに登場。特に、ルービックキューブをそろえる完全自律型のロボットが目を引いていました。また、3Dプリンターや木や金属など様々な素材を削るカッティングマシンなどの工作機械も多くなりました。小型バスの中に様々な工作機械を置いて実際に体験できる「ファブラボ」ブースがあり、日本企業のブラザーも自社製品を出展していました。小型で低価格のものや、モジュールだけを変えればいろいろな物を削ることができるものなど、種類豊富です。9年前まだ日本の初等・中等教育には見られなかったデータロガー(実験のデータを取る電子器具)も無線に対応したものや、コンパクトで多機能なものも登場していました。

アクティブ フロア

しかし、何といっても目立ったのは、AR(拡張現実)やVR(バーチャル・リアリティ)の教材が増えたこと。ゴーグルをつけて3D の仮想現実の中に入って体験したり、パソコンの中の世界と現実の世界が連動したりする教材がいくつもありました。また、椅子のような床置きの大きなタブレット、指の繊細なタッチも感知して実際に鉛筆や筆で描くように絵を描くことができる大きなタッチスクリーン、日本の各地でイベントを行っている「チームラボ」のように、映像を床に映し出して人間の動きと連動して映像が動いたりするフロアスクリーン、大きな布製の立方体の椅子と電子黒板とが連動して子供が身体を使ってその立方体を動かして学べるものなど、技術による進化とその応用には目を見張るものがあります。

電子黒板と現実のコラボ

9年前には電子黒板を使ったカリキュラム作成支援ソフトの豊富さに驚きましたが、今回は子供が自分で学べる電子黒板もいくつか登場していました。まさに、これからの教育を暗示するものです。これまでは先生が行う授業を支援してきたものが、子供たちのアクティブラーニングを支援するものに、その使い方が変化してきたことを意味します。iPadのようなタブレットでは当たり前のことですが、教室で使える大きなものでしたら協働学習が可能になります。私共が実践してきた教育理論「社会的構成主義」を実現する一つのアイテムになりそうです。先生は、知識を与え教える立場から、子供の学びをデザインし、子供の活動をファシリテート(円滑に進むように促進)する立場に変わることが、ますます要求されるようになるのではないでしょうか?

私共が歩んできた道が正しかったことを改めて実感しましたが、技術は日進月歩です。このBETTで出会ったいくつかの優れた教材を検証し、Truthの授業に有効に取り入れる方法を模索したいと思います。また一方で、2020年から小学校でプログラミングが必修科目になりますが、教育の在り方が変わらなければ、プログラミングも単なる一つの教科に終わってしまいます。むしろ、プログラミングを教科にすることによって、教育そのものをどう変えていくか、考えなければならないのではないでしょうか?

トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

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【第137回】世界の教育をリードする教育展示会「BETT」見聞録①

~ロボット教材百花繚乱~

【第137回】トゥルースの視線

まだ午後3時を回ったばかりなのに、辺りは既に薄暗くなりかけ、どんよりとしたヒースロー空港に降り立つと小雪が降っていました。ロンドン市街に向かう電車は数少ない寡黙な乗客を乗せて、次第に強さを増してくる雪の中を時折単調な車内アナウンスを流しながら走っていきます。すっかり暗くなってやっとたどり着いたロンドン塔近くのホテルの窓からは、眼下にライトアップされたブリッジタワーが見えます。翌日から毎年ロンドンで開催される世界最大規模の教育ICT展示会「BETT」(British Educational Training and Technology Show)が始まります。


ExCeL London

今年は1/23~26に例年通りExCeL London(エクセル展覧会センター)で開催されました。新しい教材との出会いを求め、これからの教育の潮流を直接見たいという思いから、前回訪れた2010年以来9年ぶりの参加。まだ正式な数字は発表されていませんが、今年は850社を超えるリーディングカンパニー、100社以上のスタートアップカンパニーが参加し、2017年には34,000人の来場者があったとのこと。ExCeL Londonは巨大な展示会場です。BETTはその左右に分かれた片側10ホールをすべて使用し、ホールの中も外の幅広い廊下も教育関係者で溢れんばかりの賑わいです。ヨーロッパやアメリカ、アフリカ、そしてアジアからも来場し、日本人の方も何名かいらっしゃいました。来場者の中には、先生に引率された地元小学校の生徒たちもグループでいくつか見られ、いろいろな教材を実際に使って興じていました。先生方はその姿を見て、教材の選定や活用方法について思いを巡らせているようです。

MicrosoftやGoogle、DELL、Lenovoなどの世界的なIT企業に加えて富士通やエプソンなど日本の企業も大きなブースを構え、教育業界に本腰を入れている状況がまず目に飛び込みます。また、ロシアやブラジルなど国を挙げて出展しているブースもありました。教材では、アジアの国では日本の企業は少なく、中国や韓国、台湾の企業が多い印象でした。

今回の特徴としてはまず、英国での開催ということもあり、Truthのダヴィンチ・ジュニアⅢのクラスでも使用し春休みサイエンス講座でも行う「micro:bit(マイクロビット)」が目立ったことです。micro:bitはBBCがSTEM教育のために開発し、中学1年生全員に100万台無料配布した、プログラムができるマイコンボード(超小型コンピュータ)です。micro:bitに接続できるモジュールやMicrosoftとBBCが共同開発しているカリキュラム、自社製品をmicro:bitと組み合わせた教材など様々な形で展示やデモが行われていました。電子工作・プログラミングだけではなく、Truthのジュニア・インベンターで行っているように、データロギング(実験データの収集)を行ったり、さらにそのデータを活用して何かを制御したりする活動も紹介されていました。

また、ロボット教材が百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の様相を呈していました。従来のロボットの類似品も当然多くありましたが、特に、Truthの夏休みサイエンス講座で使った「Bee Bot」のように、パソコンやタブレットを使わない、幼児から児童向きの新教材が種類を増やしたようです。カード上のブロックを板の上に並べて、それをカメラで読み取り、そのプログラムをロボットに無線で送って動かすものや、Scratchに似たコマンドブロックをScratchと同じように机の上に置き、直接ロボットに送って動かすもの、「MESH」のようにタブレットで直感的にプログラミングできるアプリを備えたものなど多様性を増しています。なんと、Bee Botも障害物を認識したり、お互いに通信できたりするなど進化していました。汎用性のある教材を求めるよりも、対象年齢や学習目的を明確にして教材を求める時代です。これだけ多様な中から選ぶとなると、サンプルを輸入してその長所や短所を比較検討する必要性があるようです。

トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

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【第136回】トゥルースの視線

2019年新年のご挨拶 ~ 人類は新たなステージへ ~

平成最後の年、東京は晴れて穏やかに明けました。昨年12月20日、天皇誕生日を前にした天皇陛下の記者会見での、「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」というお言葉が心に残りました。思えば、昭和64年すなわち平成元年に、トゥルース・アカデミーは産声を上げました。そして今、平成の世が終わり、新たな時代が始まります。明けましておめでとうございます。 

毎年元旦には新聞各紙に目を通しますが、ここ数年はITやAI(人工知能)、ロボットといった技術革新の特集が毎年組まれています。今年出色なのは、「つながる100億の脳 常識通じぬ未来、『人類』問い直す」というタイトルで始まった日経新聞『Tech2050新幸福論』の特集ではないでしょうか?①猿人から都市国家(個から集団へ変化)②第1次~第2次産業革命(動力・エネルギーの革新)③第3次産業革命(情報処理・共有の発展)④生命科学の進歩(人の限界への挑戦)に続き、今バイオとデジタルの発展により、「ヒト、機械、ネットワークの融合」を目指す「第5の革新」が加速度的に進行しているとのこと。その内容には大変驚かされます。全世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリは、その最新作『ホモ・デウス』で、これまで人類が苦しんできた「飢饉と疫病と戦争」は、もはや無力な人類の理解と制御の及ばない不可避の悲劇ではなく既に対処可能な課題となったと語り、次なる人類の課題として「不死と幸福と神性」を標的にする可能性が高い、ロボットやコンピューターと一体化しながら人間(ホモ・サピエンス)を神(ホモ・デウス)にアップグレードするだろうと予想します。日経の特集は私たちがまさにその過程にあることを自覚させるのに十分な内容でした。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は Tech2050.jpg です

カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究室でアリソン・ムオトリ教授が培養液を満たした皿に見せた白い物体は、人間の様々な細胞や組織に育つiPS細胞から作った「人工脳」。3カ月前ワシントン大学とカーネギーメロン大学の研究チームは3人の脳を特殊なヘッドギアなどで結び、脳波を通じてテトリスに似たゲームを共同でこなす様子を詳述し、複数の人の脳を安全につなぎ問題解決した初の例とした。脳と機械、そして脳と脳をつなぐブレイン・ネットワーキングの先駆者であるデューク大学教授ミゲル・ニコレリスは「脳同士が会話できれば言語すらも省略できる」と話す。50年の世界人口はおよそ100億人。時間や場所の制約も越え、人類のコミュニケーションや知の探求は速度と広がりを増すと。

ワシントン大学の今井真一郎教授らは老化を抑える長寿遺伝子を突き止め、日本企業が大量生産に成功し一部市販もされている。スタンフォード大学の中内啓光教授はブタの体内で人間の膵臓の作製を目指し、「いずれは生きた臓器同士の交換が始まる」と言う。国際電気通信基礎技術研究所は、二本の手と脳波で第3の腕を同時に操るロボットアームを開発。ロボットベンチャーのメルティンMMIは人間の動きを再現する制御技術と組み合わせ、肉体の一部を機械に置き換えるサイボーグ技術の実現を目指し、「脳さえあれば何でもできる社会」を究極の目標とする。フィンランドのスタートアップ企業ソーラーフーズは、水から水素を取り出して二酸化炭素に混ぜ、バクテリアに食べさせてたんぱく質を作る技術の試作に成功。農業や畜産の資源に恵まれない国でも食糧大国になれる。カナダのカーボンエンジニアリング社は、大型ファンで大気を集めて化学反応などで二酸化炭素を抽出して水素と混ぜてガソリンや軽油、ジェット燃料を作り出す。空気から燃料が作れるのだ。起業家のムハマンド・ヌール氏は仮想通貨の基礎技術であるブロックチェーンにより「国家は丸ごとデジタル化できる。国家に支配されないコミュニティをテクノロジーの力で作る」と語る。スタートアップ企業テレイグジスタンス社はヘッドセットグローブを身につけて体を動かすと遠隔地のロボットが連動する、世界中を自由に「移動」できる技術を開発した。人類を隔ててきた「距離」が消え国境をやすやすと飛び越えられるようになる。

これらの技術が加速度的に開発され実現していき、「超人」と呼ばれる新しい人類が出現していく時代において、今の子供たちにどのような教育が必要となるのでしょう?「研究室で優秀な学生だなと思い、出身を聞くと『どこどこ高専です』『高専でロボコンやっていました』と答える学生が多い。これまでに研究室には高専出身者が10人ほどいて、本当に外れがなくて優秀だ。高専生は日本の宝だ」と話す、人工知能分野の第一人者ある松尾豊・東京大学大学院特任准教授の言葉にヒントが見つかりそうです(日経産業新聞2018/11/15)。

松尾氏は述べる。「ディープラーニング(深層学習)の研究はロボティクスのような機械などのリアルな世界の方向に進んでいる。自動運転、医療画像、顔認証など画像認識にはイメージセンサーやカメラが必要だ。電気や機械の基礎知識を習得した高専出身者は強みを発揮できる。ディープラーニングを学んでから電気や機械を学ぶよりも、逆の順の方がはるかに簡単で身につきやすい。電気や機械の基礎を学ぶには1、2年はどうしてもかかるが、ディープラーニングはあっという間にできるようになることがある。これからのAI時代の三種の神器は電気、機械、ディープラーニングだ」「高専出身者はとにかくやってみて、結果を私のところに持ってくる。こちらも的確な指導ができて、次のチャレンジにどんどん進んでくれる。いろいろなモノを使えるようにする実装力がある。プロジェクトのリーダーとしてもふさわしい」と。

2020年小学校での必修化に伴い、世はプログラミング教育に浮き立っている感があります。しかし、現実社会はもっと先に進んでいて、求められる能力はプログラミング・スキルだけではありません。トゥルースは、STEM教育を始めてから18年余り、ブロック・サイエンスやロボット・サイエンスでのメカニズムとプログラミングの融合、データロギングの学習、リトル・ダヴィンチでの算数活動や電気の学習、それらとプログラミングの融合など、いろいろな教育的チャレンジを行ってきました。しかもそれらを、21世紀に求められる「社会的構成主義」(視線128回参照)という教育理論に基づき、「ハンズオン」という直接体験型の学びを通して。トゥルースが提供する学びの形は変わりませんが、さらに時代が求める教材とそのカリキュラム開発に全力を注ぎ、邁進していきたいと考えております。本年もよろしくお願いいたします。

人間の定義は技術の進展に応じて変わる。                 いま必要なのは、自分自身は何者なのか考えることだ。           ― 世界初の完全自律対話型アンドロイドの創造者・石黒浩大阪大学教授 ―


トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

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【第135回】トゥルースの視線

ぶんかサイエンスカフェ市民講座~ AI・ロボットの時代を生き抜く力 ~

去る10/27(土)練馬区役所20階交流会場にて、当アカデミー代表の中島が科学技術教育ネットワーク(NEST)理事として講演を行いました。主催は「ぶんかサイエンスカフェ」(代表:伊藤規志子氏)。生活に役立つ情報提供、文化・科学研究や実践成果を発展的に学び合う異文化を学習することを通して、練馬の市民を元気にすることを目的としている市民団体です。

OECD教育・スキル局長アンドレアス・シュライヒャー「すべての知識はGoogleにある」「今の子どもたちが大人になったときは、65%の職業が今ない職業にとって代わっているだろう」、英オックスフォード大学マイケル A.オズボーン准教授「10~20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、AI(人工知能)やロボットに代替することが可能」という時代に、今の子供たちは生きていかなければなりません。「学習とは、人がコミュニティに参加して、そこでのアイデンティティを確立する過程であり、その過程で人の『できること』が変化することである」という、フィンランドを学力世界一に導いた「社会的構成主義」をいかに実現するか?国際的な学力調査PISAに示される「OECDキーコンピテンシー」や国際団体ATC21sが示した「21世紀型スキル」を紹介し、NESTの活動を紹介しながら、この21世紀に求められる教育について語りました。

「OECDのキーコンピテンシー」の大項目は、①社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力(個人と社会との相互関係)②多様な社会グループにおける人間関係形成能力(自己と他者との相互関係)③自律的に行動する能力(個人の自律性と主体性)であり、これは「21世型スキル」や、オズボーン准教授が説く「AIやロボットによる自動化が難しい職業の3つの特徴」①創造的思考②ソーシャルインテリジェンス(社会的知性)③非定型にも相通じるところが多々あります。

これらの能力を実現する教育的手法として、Activity Based Learning (子供たちの活動をベースにした学習)・Project Based Learning (プロジェクト型学習・問題解決型学習)・Future Oriented Education(未来志向の教育)が教育界で現在求められています。その実現には、チームとしてのプロジェクト学習と位置付けられているロボットコンテストを目指す学習活動が有効であることを説きました。ロボットコンテストの意義として、●工学的な知識・科学技術・数学の実践的活用・プログラミング技術●設計力・デザイン力●PDCAサイクルによる企画・開発力●創造力・問題解決力・戦略的思考・クリティカルシンキング(批判的思考)●コミュニケーション能力・チームワーク形成力●プレゼンテーション能力●グローバル・コンピテンシー、などが挙げられます。

早稲田大学公共政策研究所の招聘研究員であり、一般社団法人「途中塾」の代表理事である羽田智恵子氏も聴講しに来て下さり、講演後の懇親会でたっぷり意見交換をさせていただきました、「途中塾」というのは、早稲田大学大学院の修了生12名が、同院の客員教授だったジャーナリスト筑紫哲也氏を塾長に開講した勉強会で、「未来志向の若者に斬新な発想の機会を提供し、引力のある『場』を創出する」ことを理念としていたとのこと。2008年、筑紫氏没後いったん閉鎖となったが、2012年寺子屋流に仮開講。童門冬二氏(作家)や加藤登紀子氏(歌手)を始め幅広い分野から発起人が集まり、2014年本格開塾したそうです。また、教育を目指す高校生からも進路や学習すべき内容についての質問をたくさん受けました。

人の輪が広がって、NESTやTruthの目指す教育の共感者や協力者が増えているのを強く感じる講演会でした。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳
トゥルースアカデミー
http://truth-academy.co.jp/

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ロボットマスター

【第134回】トゥルースの視線

World Robot Summit 2018東京プレ大会2018
~ 人とロボットが共生し、協働する社会の実現に向けて ~


「World Robot Summit」(WRS)は、経済産業省NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主催。国際的なロボットの競技会(World Robot Challenge : WRC)と展示会(World Robot Expo:WRE)で構成されます。第1回となる本大会は2020年に愛知県(10月)と福島県(8月インフラ・災害対応カテゴリーの一部競技)で開催されます。それに先駆けて、去る10/17(水)~21(日)にプレ大会「World Robot Summit 2018」が東京ビッグサイトで行われました。

WRC(競技会)は、大きく分けて「ものづくり」「サービス」「インフラ・災害対応」「ジュニア」の4カテゴリーあります。フィールドが大きくて目を引いたのが「インフラ・災害対応」。「プラント災害予防」「トンネル事故災害対応・復旧」「災害対応標準性能評価」の3チャレンジがあり、かなり実践的な研究を行っていることを目の当たりにしました。「ものづくり」の製品組立チャレンジは、メーカーの技術開発が進み、かなり精度が高まってきた気がします。見て楽しかったのは「サービス」。「パートナーロボット」と「フューチャーコンビニエンスストア」の2チャレンジがあり、前者は家庭における片づけをテーマにして、実際にロボットが動く「リアルスペース」とVRを使った「バーチャルスペース」の2競技がありました。後者は、コンビニでの商品陳列やトイレ掃除などに挑戦。現実空間で動くロボットについては、ロボットが人間の作業を代行するにはまだまだ克服しなければならない難しさがあると実感しました。

そして、やはり最大の関心は「ジュニア」です。日本チームの他、ベトナム、タイ、マレーシア、オーストラリア、オランダ、アメリカからの出場。「スクールロボット」と「ホームロボット」の2チャレンジが用意されています。前者は今ではすっかりおなじみのロボット「Pepper(ペッパー)」を使用して、ロボットがいる学校を想定し、学校生活の向上に役立つロボットのプログラミングを考えるというものです。Pepperは数日前から使用することができます。後者は、人とロボットが協力しながら生活する家庭を想定したロボット製作・プログラミングを目的とします。こちらはどんなロボットを使ってもよく、1チーム2台まで出場できます。どちらのチャレンジも、いくつかの決められた課題に挑戦する「スキルチャレンジ(30%)」と「オープンデモンストレーション(50%」「テクニカルインタビュー(20%)」の合計点で競います。残念ながら連日訪問することはできず、私が訪れたのはオープンデモンストレーションの日でした。緊張しながらも審査員の前でデモンストレーションを行っている子供たちの姿は頼もしいものでした。新しい挑戦を見るとワクワクと心躍るものです。2020年の第1回大会にはTruthの生徒たちにもぜひ参加してもらいたい、と強く感じました。

RE(展示会)は「Japan Robot Week2018」と同時開催だったため、多くの企業が参加。ヤマハの倒れないバイクやオムロンの卓球するロボットは人気がありました。「第8回ロボット大賞」の展示も行われ、来場者も多くとても活気がありました。東京ビッグサイト別会場では、「ブロックチェーン2018」や「ビジネスAI2018」も開催されており、まさに人口知能(AI)とロボットの時代に生きていることを痛感しました。

今回のWRCはロボカップを運営している方々が多く、中心となって運営に当たっていました。2020愛知大会は、ロボカップ・アジア・パシフィック大会(RCAP)と同時開催。当然、大人のメジャーだけでなく、ジュニアの競技も全競技行われることになります。WRCとRCAP。大人部門もジュニア部門も同時に2つの大会となるので、東京オリンピックだけでなく、想像するだけでワクワクする年になりそうです。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

トゥルースアカデミー
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【第133回】 AIは人間を超えられるのか?(2)

日本の子どもたちはAIに勝てるか?

前回に引き続き、国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長、一般社団法人教育のための科学研究所代表理事・所長の新井紀子氏著「AI vs教科書が読めない子どもたち」の内容を簡単にご紹介いたします。まず、なぜ東ロボくんが東大受験を断念したか?それは、AIの限界を証明したからです。

「真の意味でのAI」が人間と同等の知識を得るには、私たちの脳が意識無意識を問わず認識していることをすべて計算可能な数式に置き換えることができることが大前提になります。しかし、数学が4000年の歴史をかけて発見した数学の言葉のすべては、「論理」「確率」「統計」の3つに限られています。AIといえどもコンピューターは計算機であり、できることは基本的に四則演算だけ、しかも使っているのは足し算とかけ算のみ。数学には「意味」を記述する方法がない。だから、AIには意味を理解する仕組みが入っているわけではなく、あくまで「あたかも意味を理解しているフリ」をしているに過ぎないのです。

「2016年度第1回東大入試プレ」で、東ロボくんは数学では偏差値76.2を記録したものの、150億もの英文を暗記した英語の偏差値は50.5、国語に至っては49.7にしかならず、東大の挑戦権を得るには遠く及びませんでした。ディープラーニングの限界を証明したことは、東ロボくんプロジェクトがもつ意義ではあります。しかし、多くのホワイトカラーの職がAIに奪われるという予想が現実のものとなることをも示唆しました。1学年の数は約100万人、その半分の50万人がセンター試験を受験し、東大君がその上位20%に入りました。東ロボ君に負けた80万の子供たちに明るい未来が提供できるのか?という疑問を新井教授は抱きました。

2013年にオックスフォード大学の研究チームが発表した10~20年後に残る職業の共通点は、高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野で、AIが不得意な分野と一致します。新井教授は、それまで誰も疑問を持たなかった「誰もが教科書の記述は理解できるはず」という授業の前提に疑問を持ち、全国25,000人を対象に、独自で開発をした「基礎的読解力調査(リーディングスキルテスト:RST)」を実施。AIが80%程度の精度を持つ「照応(主述・修飾被修飾の関係)」「係り受け(指示語)」に加え、AIにはできそうもない「同義文判定(2つの文を読み比べて意味が同じであるかを判定)」「推論(生活体験や常識から意味を理解する能力)」「イメージ同定(文章と図やグラフを比べて内容が一致しているかどうかを認識する能力)」「具体例同定(定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力)」を加えた6つの観点から作成しました。

その結果は、「照応」の正答率が中学生6割・高校生7割、「係り受け」は中学生7割弱・高校生8割弱で意味を理解できないAI並み。「同義文判定」中学生6割弱・高校生7割、「イメージ同定」1~2割・高校生3割前後でした。鉛筆を転がして選択肢を選ぶ程度のランダムさしか示していない結果もあります。PISA読解力2015年世界8位の日本ですが、移民の少ない国で日本語を母国語として育つ子供の割合が極めて高いにも関わらず、3人に1人が教科書を読めない(内容理解を伴わない表層的な読解もできない)子供がいるのは、なぜか?これでは、AIに職を奪われても仕方ありません。

新井氏がこの読解能力調査で分かったことは、
・高校の偏差値との相関は高い
・中学では向上するが、高校では向上していない
・家庭の経済状況とは逆になる
・通塾や読書の好き嫌い、科目の不得意、スマホの利用時間、学習時間とは無関係など。

私たちも読解力の低下は何となく感じていましたが、理数の能力はとても優れているのに、問題の文章が正しく読み取れていないために正答することができない場面が気になっておりました。リトルダヴィンチ理数教室では問題文を正しく読み取る練習として9月から「算数・数学思考力検定」の過去問を扱う授業を加えたのは、このような背景があるからです。新井教授の研究は進んでいくと思いますが、私共教育に携わる者として、真剣に向き合って考えなければない重要な問題だと思います。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳