【第167回】練馬区地域おこしプロジェクト③

~ STEM教育の在り方に対する危惧 ~

NPO法人科学技術教育ネットワークとして、令和4年度『練馬区地域おこしプロジェクト』事業企画募集に『練馬発・国際ロボット教育 ― つながろう!教育の輪で』という事業を応募し、「国際的ロボットコンテストを練馬で開催しよう!」という提案をいたしました。1次書類審査が通ったという連絡が年明けにあり、先日10名ほどの専門家の審査員を前に2次審査のプレゼンおよび質疑応答を行ってまいりました。

1次審査書類審査に先立ち、練馬区在住の保護者の方々にアンケートをお願いし、通信165回(https://truth-academy.jp/truth-shisen/501)でSTEM教育を望む声をご紹介いたしましたが、一方でその在り方に危惧を抱く方もいらっしゃいました。その危惧にお答えしたいと存じます。

■一般論として、区のプロジェクトに採用された場合に、レベルに高低差のある子供たち相手に、短期で目に見える成果を上げることを求められる(~が出来るようになる、など)と、とにかく詰め込み教育になりがちかなと思います。

■いま国で検討されている内容が、他の教科と同じような詰め込み型の学習になってしまうと、むしろ数学、理科嫌いを助長させてしまうのではないかと、不安。課題解決のツールとして身につけ、活かせるような教育になってほしい。自分たちで手を動かして、課題解決に導く、そんなカリキュラムだと、いいと思う。失敗から学べることも多いことも、身を持って感じられるような…。

トゥルースは中学校や高校では毎週1回1年間の授業を行ってきましたが、一方この20年間日本科学館は杉並区科学館等、いろいろな科学館や区との協働事業で、1クラス20~30名の1日~3日の短期講座を行ってきました。私共の使命は、『社会的構成主義』という教育理論(視線128回参照:http://truth-shisen.blogspot.com/2018/04/128.html)の実践と普及にあります。学校の先生始め教育関係者からは「理論と実践が完璧に一致しいている」との評価をいただいており、「問題解決学習とは、こういうことなのか!」というお声もいただいております。指導者向けの著書や雑誌の連載、NESTが運営する指導者向けe-learningサイト「STEMing」でも、その手法を紹介しています。そのため、詰め込み教育に陥ることなく、「Activity Based Learning(子供たちの活動をベースにした学習)」「Project Based Learning(プロジェクト型学習・問題解決型授業) 」「Future oriented Education(未来志向の教育)」を実践するノウハウ、経験は十分にあると自負しております。

■STEM教育に興味を持つ保護者は、教育熱心だと思います。そこで考えられるのが、中学受験との兼ね合いかと。可処分時間を考えて、中学受験の塾よりもSTEM教育を選択してもらうには、STEM教育の結果を見せるのが大切かと思います。中学受験は、学歴という短期の利益を得ることができるのに対し、STEM教育は短期的利益はあまり見込めません。長期的目線でどのような利益があるのかを訴えないと、保護者はお金と時間をかけないと思います。

もっともなご意見だと思います。しかし、受験とSTEM教育は両立できないものなのでしょうか?長く通っている生徒しか合格校は分かりませんが、トゥルースに通いながら受験勉強もして、御三家・早慶・国公立を始め優秀な学校に入学している生徒が多いようです。高校や大学の推薦状を依頼されることもあります。ご本人のロボットコンテストでの実績や活躍をしたためた私の推薦状がどれだけの効果があったのかは分かりませんが、全員から志望校に合格したという報告をいただいております。そして、ほぼ100%が理系に進学しています。また、生徒から講師になり、10年~20年トゥルースに関わってきた学生たちは、ロボット・ゲーム・機械・電気・制御関連の専門性を活かした職に就いています。21世紀の三種の神器が「機械・電気・AI」と言われる中、STEM教育を通じて『21世紀型スキル』(視線95回参照:http://truth-shisen.blogspot.com/2015/02/)を身につけた成果であると感じております。また、ロボットコンテストから得られる成果の一つとして、子供たちが将来大人になって社会に出たとき、○○年のジャパンオープンに出たよ、○○年の世界大会に出たよ、というだけで、日本中に世界中に人的ネットワークを手にすることができるということが挙げられます。かけがえのない人生の財産を手にすることができる場でもあるのです。

ロボカップ2012世界大会 優勝チーム「Amalgam」令和4年度『練馬区地域おこしプロジェクト』の採択事業は2つのみ。難関ですが、練馬を起点としてSTEM教育の輪が全国に広がり、海外との交流も実現できればと願っています。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第166回】新年のご挨拶

~ 高まるデータサイエンス教育の必要性 ~ 

 

2022年の東京は、北風が強く吹く晴天の元旦を迎えました。コロナ禍が発生してから早2年、一見落ち着きを見せていましたが、オミクロン株が猛威を振るう前の、束の間の嵐の静けさに過ぎなかったのかもしれません。ウィルスと人間の科学との戦いはまだ続きそうです。

昨年6/28スロバキアのクライン・ビジョン社が開発した「空飛ぶ車」が35分間の飛行テストに成功しました。「エア・カー」と名付けられた自動車兼飛行機です。スロバキアのニトラ国際空港からブラチスラバ国際空港までの70㎞を35分間で飛行に成功。着陸後、ボタンを押すとエア・カーは3分でスポーツカーに変身し、そのまま空港から市内へ移動しました。テストでは最高で高度2500メートルまで上昇し、速度も時速190キロまで出たということです。その映像は、まるでSF映画を見ているようです。

↓エア・カー飛行の様子

「空飛ぶ車」の定義は様々ですが、経済産業省は、①電動②自動(操縦)③垂直離着陸を条件としています。

経産省の工程表では、2023年に離島の荷物輸送・観光地の遊覧飛行、25年頃に山間部や都市部の荷物輸送・旅客輸送、30年代に自動無人飛行・自家用を目指すとしており、2025年の大阪万博では、会場の遊覧飛行や会場と関西国際空港などを結ぶエアタクシーサービスを計画しています。

今後さらにAI(人工知能)やロボットの技術が進化し、それに携わる人材も当然必要となります。

昨年、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」という文部科学省の認定制度が始まりました。数理・データサイエンス・AIに関する知識及び技術について体系的な教育を行うものを文部科学大臣が認定及び選定して奨励するというものです。昨年は大学・短期大学・高等専門学校から78件の応募があり、11件が認定されました。その中には、ロボカップジュニアにもご協力くださり、Truthの卒業生も通う金沢工業大学の「KIT数理データサイエンス教育プログラム」、長岡工業高等専門学校の「AIR Techエンジニア育成プログラム」も入っています。

データサイエンス」という言葉を最近よく聞きますが、これはデータを用いて新たな科学的および社会に有益な知見を引き出そうとするアプローチのことで、数学・統計学・情報工学・機械学習など多岐に渡る分野と横断的に関係しています。このところ、経営戦略や販売促進にビッグデータや統計学が活用されるようになり、ビジネスシーンでも数学・統計学の必要性が高まっているようです。数学独習法の著者・富島佑允氏(大手外資系生保で資産運用部門に勤務)は、代数・幾何学・微積分学・統計学を「数学四天王」と呼び、その全体像をざっくりつかみ、俯瞰できるようになることの大切さを説いています。

また、教育の分野でも、欧米を中心に30年程前から統計教育の重要性が説かれ、データに基づく実践的な統計的問題解決力、思考力の育成を国家戦略として位置付けています。日本でも、平成20・21年度の学習指導要領では、小中高ともに統計教育が充実し、特に高校の数学や新教科の情報、大学入学共通テストではデータの活用内容に重点が置かれています。こども統計学 なぜ統計学が必要なのかがわかる本の監修者である渡辺美智子氏(理学博士/立正大学データサイエンス学部教授)は、「統計データを『調べる力』、そこから何かを『読み取る力』、その結果から『身の回りの問題を解決し改善する力』など、総合的な探求力が養える統計学では、すべての人に役立つ、生きる上で強力な武器になるのです」とその意義を説き、「日常の些細な事柄においても感情や思い込みではなく、エビデンスに基づき判断する」「統計リテラシーを育てるには、子どものうちからいろいろな文脈でデータを集め、データに基づいた判断を下す練習をしなければなりません」と、幼いころからの教育の重要性を訴えています。

コロナ禍において、様々なデータや統計、シミュレーションが報道されています。しかし、正しく統計を読む力、統計で考える力を持たなければ、正しい理解も正しい判断もできないのです。算数・プログラミングを扱っているリトル・ダヴィンチ理数教室でもデータサイエンス教育の導入を検討したいと考えています。

新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

― データは21世紀の刀、データ分析ができる人は21世紀のサムライ ―

Google元CEOエリック・シュミット

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第165回】練馬区地域おこしプロジェクト②

~ STEM教育に普及を望む声 ~ 

 

練馬区地域おこしプロジェクトに応募した際に練馬区在住の保護者の皆様にお願いした、STEM教育(ステム教育:科学・技術・工学・数学)についてのアンケートに寄せられたご意見をご紹介いたします。まず今回は、肯定的なご意見を。

<練馬区のSTEM教育の現状と期待について>

■このコロナ禍で小学校でもPCが個人に配布されるようになりましたが、有効な使われ方をしていないように感じます。せっかくの機会なので、この状況をプラスに捉えて授業などでもっと活用していったり、子供たちの想像力を伸ばせたりする使い方ができればいいと思います。

■近隣の板橋区や中野区では、定期的に小学生向けの実験教室やプログラミング講座などが行われていますが、練馬区ではこれまでそういった活動はほとんどありませんでした。今回のプロジェクトを通して、練馬区の子供達が科学や工学に触れる機会を作っていただけたらとても嬉しいです。

■ゲームプログラミングと違い、生活や社会などに深く関わるロボットプログラミングだからこそ、子供のうちから体験を通して学べる事は将来財産になると信じています。やるならぜひ定期的な学習の場を提供してほしいです。

■学校でプログラミング教育が始まったとはいえ、まだまだそれほど浸透しているようには思えません。息子は学校で、ロボットの大会に出ていますが、そのことは一切言わないそうです。それはなぜなら、周りに言っても理解してくれないからと言っていました。是非ともこの事業に参加して練馬区のプログラミング教育を盛り上げて、ロボットの国際大会を練馬で開催してください。

■公立小中学校は変化、進化速度が遅いので、新しい刺激が入って時代に即した教育が更新されていくことを期待します。

■先駆者であるプロに先生になってもらう事はこの先の先行投資の意味合いもあるしここから雇用が生まれれば練馬区にとってもチャンスだと思います。

■応援します!ロボットの街、プログラミングの街として練馬区の魅力を発信できれば良いと思います。

■今後のプログラミングソフトの学習に於いて、ロボット開発の就職に有効となれそうなものであるとより有り難いと思っております。また、最新のロボット開発や使用ソフトなどの情報提供のセミナーや有効的な施設見学などのイベントなどあると嬉しいです。

「ICT の活用で、区においてもアクティブ・ラーニングの視点に立った学びを取り入れることにより、 ① 基礎的な知識や技能を確実に身に付ける ② 考える力、判断する力、表現する力を育成する ③ 主体的に取り組む姿勢を養う ことのできる授業を目指します」と謳った『練馬区学校ICT環境整備計画』を作成しましたが、期間は2016~20年なので、現時点どのような目標を設定しているのかは不明です。また、現在、特別非常勤講師を募集していますが、プログラミング教育の募集は小学校で1校のみ、しかも1名のみ。練馬区には科学教育の拠点となり発信地となる科学館がないので、STEM教育を強力に推進することができないのかもしれません。

私共Truth Academyは、同業の仲間から「もっと教室を増やせばいいのに」と言われますが、小中高校、科学館への出張授業、NPO法人NESTやロボカップジュニアの運営、指導者の養成に力を注いできました。21世紀教育に求められる「社会的構成主義」(https://truth-academy.jp/truth-shisen/43 参照)により日本の教育の在り方を変えることを目標としています。練馬区がその拠点になれればと思っております。

次回は、STEM教育の在り方やその価値についてのご意見をご紹介したいと思います。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第164回】練馬区地域おこしプロジェクト①

~ 練馬区発・国際ロボットコンテストの提案 ~

 

練馬区が現在募集している「地域おこしプロジェクト」に、トゥルース・アカデミーが所属し、私が立ち上げた「NPO法人科学技術教育ネットワーク(NEST)」として、応募することにいたしました。これは、未来に向けた夢のあるまちづくりの実現に向け、区民の自由な発想で、未来の練馬の発展につながる事業を区との協働により実施するプロジェクトです。この20年間、日本科学未来館を始めとした様々な科学館や他区からの委託、小・中・高校からの依頼で教室外でも年間数百名の子供たちにロボット・プログラミングを指導してきました。しかし、本拠地のある練馬区では単年度の協働事業でしか実現していなかったため、継続的に貢献できればと思って応募した次第です。

目標は、練馬区の小学生~高校生にロボット・プログラミング学習を提供すること、練馬区内の学校の先生や指導者を目指す方々にその指導方法を伝授し、学校を始めとする様々な場で子供たちに学べる機会を提供できる環境を作ること、そして、学習の目標として国際的なロボットコンテスト「RoboRAVE(ロボレーブ)」を練馬で開催することです。他区・他市からお通いのお子様も多くいらっしゃいますが、最初は練馬大会、その後全国大会、そして国際大会と規模を大きくしていく予定ですので、参加の機会を得られるようにいたします。

この応募に際し、練馬区在住の保護者の皆様に、STEM教育(ステム教育:科学・技術・工学・数学)についてのアンケートをお願いしたところ、37名の方々からご回答をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。アンケート結果は次のようになりました。

 

●今の日本の子供たちに、STEM教育が必要であると思いますか?

⇒必要であると思う(94.6%)分からない⇒(5.4%)

●STEM教育をお子様に受けさせたいと思いますか?

⇒ぜひ受けさせたい(86.5%)まあまあ受けさせたい(13.5%)

●学校でプログラミングを始めとしたSTEM教育が実践されていると感じますか?

⇒ある程度実践していると思う(16.2%)あまり実践しているとは感じられない(54.1%)

●練馬区とコラボ(協働)した取り組みとして、STEM教育の場があったら、お子様に参加させたいと思いますか?

⇒ぜひ参加させたい(78.4%)まあまあ参加させたい(21.6%)

●国際的なロボットコンテストが練馬区で開催されたら、お子様を参加させたいと思いますか?

⇒ぜひ参加させたい(64.9%)まあまあ参加させたい(35.1%)

●国際的なロボットコンテストが練馬区で開催されたら、練馬区の魅力の一つになると思いますか?

⇒大いに魅力になると思う(78.4%)少しは魅力になると思う(18.9%)あまり魅力にならないと思う(2.7%)

 

トゥルースにお子様を通わせていらっしゃる保護者の皆様は、一般的な方々と比べ、教育に対する意識や関心が高く、時代が求める教育にも敏感ですので、この結果が平均的なものであるとは言えない面もあるかもしれません。しかし、STEM教育を望む保護者が多いのに対して、「GIGAスクール構想」によって生徒1人1台のパソコンが配布されたにもかかわらず、学校や区が十分にその活用するに至っていないと感じる方が多いようです。練馬区に科学教育の拠点となる科学館が存在していないのも、その一因かもしれません。

このプロジェクトでこれまで採択された事業は、2017年に3事業、18年に2事業、20年に2事業しかなく、極めて難関ですが、百年の計である教育に関心を持っていただき、この事業が採択することを願っております。

アンケートでは自由記述の欄に、様々なご意見をいただきましたので、次回ご紹介いたしたく存じます。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第163回】リケジョ(理系女子)は増えたのだろうか?

~ 理系のジェンダー・ダイバーシティの実現を! ~

日本科学未来館

今年,日本科学未来館に女性の館長が誕生しました。2代目館長となったのは浅川智恵子氏です。初代館長は開館以来館長を務めてきた宇宙飛行士の毛利衛氏。2006年ロボカップ世界大会に出場したトゥルースの生徒たちが毛利館長を表敬訪問したことも遠い記憶となりました。日本人女性として初めてIBMの最高技術職である「フェロー」に務めていた浅川智恵子氏は,事故がもとで中2の時に失明。IBMではインターネット上の情報を音声で読みあげるソフトを開発するなど、視覚障害者の生活を支える機器やサービスの開発を続けてきたそうです。就任にあたり,2030年に向けて「あなたとともに『未来』をつくるプラットフォーム」というビジョンをまとめ,多様な人たちとともにアイデアやイノベーションを生み出す基盤になることを目標に掲げました。「ダイバーシティー(多様性)」と「インクルージョン(包括性)」の重要性を強調しています。 第一歩として、人工知能(AI)を搭載して視覚障害者を誘導する案内ロボット「AIスーツケース」を館内に導入することをめざしているそうです。(9/7朝日新聞)

また,日本の女子高生が留学先のイギリスで,プログラミングコンテストで優勝するという朗報が入りました。菅野楓さん(18才)。2013年,10才からプログラミングを学びはじめ,同年にアプリ「元素図鑑」が当時小学生初となる史上最年少で「U-22プログラミングコンテスト」入賞。2017年、同コンテストで経済産業大臣賞受賞し,さらに未踏ジュ二アスーパークリエーターに認定。2018年、孫正義育英財団1期生に採択され,コンピューティング・スカラシップでイギリスに留学。2019年、アジアのアプリ開発コンテスト「AppJamming Summit」に日本代表選手として出場し、中学生部門2位とMostCreative賞のW受賞。2020年、パックツアーコンサルティングシステムの開発が、未踏IT人材発掘・育成事業に採択され,グローバルサイエンスキャンパス(GSC)全国受講生研究発表会で優秀賞受賞。2021年、イギリス最大の若者向け科学技術コンテスト「The Big Bang Competition 」で優勝(UK Young Engineer of the Year 2021)し,まさに大活躍しています。現在は,自然言語処理などの技術を活用し、言語や文学、旅行など興味分野への研究を続けているそうです。

このように女性の科学技術分野の活躍についてのニュースは最近増えましたが,一方で国内の大学におけるジェンダー・ギャップがなかなか縮まらないという指摘があります。朝日新聞と河合塾による今年度の「ひらく 日本の大学」調査では,女性教員の割合は16%,助教32%,准教授26%。教授18%と,職位が上がるほど女性の比率は低くなり,副学長は15%,学長は13%にとどまるそうです。OECDが9/16に発表した2021年版「図表でみる教育」によると,高等教育で工学・製造・建築を専攻する新入生の女性比率は16%(19年)で、OECD加盟国で最低(平均は26%)。高等教育における女性教員比率は28.4%で、これも加盟国で最低(平均は44.2%)でした。内閣府男女共同参画局が行っている「理工チャレンジ」や,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が次世代人材育成事業として行っている「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」などはあまり成果を出しておらず,女子学生の比率は01年年度調の工学部10.3%・理学部25.3%からこの20年間ほぼ変わっていないようです。

国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の報告では,学習者・家族及び周囲の人・学校・社会が有機的にジェンダー・ギャップの課題に取り組むことが必要であり,特に子どもの段階でSTEM に関する自己効力感(self-efficacy)をつけることが重要であり、そのためには親や周囲の人が偏見や固定観念に基づき否定的な声掛けや行動をせず、STEM への興味を持続するように十分留意する必要がある,と指摘しています。

かなり以前ですが,トゥルースの視線(第76~78回)でも「『リケジョ(理系女子)』の時代到来?」というタイトルの文章を掲載しています。ぜひこちらもご覧ください。

視線【76回】http://truth-shisen.blogspot.com/2013/03/blog-post.html

視線【77回】http://truth-shisen.blogspot.com/2013/04/blog-post.html

視線【78回】http://truth-shisen.blogspot.com/2013/05/blog-post.html

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第162回】学習ツールとしてのデジタル

~ 家庭でどのようにデジタルと付き合ったらいいのか? ~

 

トゥルース・アカデミーは元々進学塾としてスタートしました。しかし、学ぶことそのものが目的ではなく手段になってしまっているのではないかという疑問が徐々に頭をもたげ、受験指導に違和感を覚えるようになり、様々な教育を模索し始めました。そんな中、ある一冊の本と出合いました。富山県内の公立小学校で教諭を勤めていた戸塚滝登氏の『クンクン市のえりちゃんとロゴくん』(ラッセルブックス)という本です。新任教員として赴任した戸塚氏が子供たちになかなか授業が受け入れてもらえず苦悩した末、パソコンを購入してプログラミング教育を始めました。その実践の中で描かれている先生と生徒との交流、生徒の成長の姿に感銘を受け、「プログラミング教育こそ今の教育を変えられるかもしれない!」を思い始めたのです。

これがLOGO(ロゴ)との出会いです。LOGOはマサチューセッツ工科大学の創設者の一人、人工知能の研究者として有名はシーモア・パパート教授(2016没)が子供の学習のために開発したプログラミング言語です。LOGOは、その後パーソナルコンピュータの父アラン・ケイが「Squeak(スクイーク)」に発展させ、続いてパパートの下で助教授を務めていたミッシェル・レズニック(現教授)が今世界的に流行している「Scratch(スクラッチ)」へと発展させました。コンピューターを搭載したレゴブロックが作れないか?というパパートの発想からレゴのロボットキット「Mindstorms(マインドストーム)」(この名は元々パパートの著書の題名)が誕生。しかし当時は、パソコンとロボットが有線でつながっていましたが、タフツ大学が計測系のプログラミング言語「LabView」をベースとしたソフトを開発し、ロボットがパソコンから自由に動けるようになり、「これだ!」と飛びつきました。そして、パパートの唱える「コンストラクショニズム(構築主義学習)」という教育理論に基づいたSTEM教育を実践する「レゴとロボット教室」を2000年にスタートさせました。

その頃、客員研究員としてMITメディアラボを目の当たりにしたNPO法人CANVAS代表の石戸奈々子氏は、教育に関心を持ち始めたそうです。石井氏は今年6月『賢い子はスマホで何をしているのか』(日経プレミアシリーズ) を出版し、「コンストラクショニズム」の考えを紹介し、「新しいものを生み出したいとき、これほど有効な道具はないからです。プログラミングは、論理性を育てるためのものではなく、むしろ創造・表現のためのツールなのです」と、プログラミング教育の必要性を説いています。また、デジタルの強みは「創造・効率・共有」にあると論を展開しています。この本では、学校教育にも触れていますが、家庭や親の関わり方の話にも及んでいます。「これからの時代、『学び合い」「教え合い」が重要になる』ので、学校の先生同様「親もファシリテーターになるとよい」、そして「『スマホに丸投げ』ではなく、ときには親も一緒になって 楽しむ。 面白いコンテンツであれば、親子の会話も自然と増えていきます」と。また、「時間制限をしない家庭の子のほうがスマホにしがみつくことが少ない印象」があり、「適度なバランスをたもつためには親子のコミュニケーションしかない」、フィルタリングは当然必要だが、「ネット上で起きる問題は決して特殊なものではなく、リアルな世界で起きている問題とさほど変わりがありません。大人の知見で解決できるものばかりです」と。

この本では、トゥルースでも使用している「Scratch」や「micro:bit(マイクロビット)」も紹介しています。それだけはなく、もはや「えほん」の世界を飛び越えていますが、『デジタルえほん』アワード受賞作品の中で、「地図エイリアン」や「算数忍者」、「工作生物ゲズンロイド」など、学習に役立つアプリが数多く紹介されています。

家庭でどのようにデジタルと付き合ったらいいか、子供の学習にどう役立てたらいいかのヒントが得られるかと思います。ぜひ、ご一読なさってみてください。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第161回】コロナから子供の心を守ろう!

~ コロナ禍が子供たちの心と夢に与える影響は? ~

 

東京オリンピックの開催が迫る中、東京の感染者数は増加に転じ、ワクチン接種も期待されたほど進んでおらず、東京都は4回目の緊急事態宣言は発出されることになりました。今回は、7/12~8/22と一か月以上に及び、東京オリンピック開催期間だけではなく、子供たちの夏休みのほとんど期間が含まれます。子供たちが楽しみにしている夏休み、そして素敵な思い出が残せるはずの夏休み―その夏休みに行動規制がかかることになります。子供たちの心にどんな影響を与えるのか、不安を感ぜざるを得ません。

新型コロナウイルスの流行が子供たちに及ぼす影響について国立成育医療研究センターがアンケート調査を行っています。今年2/19~3/31に行われた第5回調査報告では、「コロナのことを考えると嫌だ」が42%「すぐにイライラしてしまう」が37%「最近集中できない」が32%などとなり、何らかのストレスを感じているとみられる子供は全体の70%に上ったということです。

 

 

 

 

 

また、日本語版「KINDL-R」尺度(子供のQOL[=quality of life]を評価する尺度)により身体的健康と精神的健康を測定したところ、第1回調査(昨年5月)と比べ、身体的健康は全般的に低下傾向にあり、精神的健康は小1~3は微増、小4~6は横ばい、中高校生は低下傾向にあります。同センターの半谷まゆみ医師は「1回目の調査から子どもたちのストレスの状態は改善していない傾向だ。コロナの影響が思った以上に長引き積もってきた負担が心や体の健康に響いてきている可能性がある。少しのサインも見逃さず子どもが困っていたら一緒に解決する方向に持って行くことが大切だ。」と述べています。しかし、「先生や大人への話しかけやすさ・相談しやすさ」については「減った」との回答が51%に及んでいます。「友達と話す時間」が「減った」との回答も46%に。

一方、「家族と話す時間」は、「減った」が42%、「増えた」が40%とどちらも増えていますが、保護者へのアンケートでは、53%が子供と過ごす時間が増えたと答えています。3/17に発表された第一生命保険の第32回「大人になったらなりたいもの」のアンケート調査結果(https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2020_102.pdf)では興味深い結果が出ました。小学男子は1位会社員・2位ユーチューバー・3位サッカー選手、小学女子は1位パティシエ・2位教師/教員・3位幼稚園の先生/保育士、中高生男子は1位会社員・2位ITエンジニア/プログラマー・3位公務員、中高生女子は1位会社員・2位公務員・3位看護師。小学男子で会社員が1位、女子でパティシエを選んだ理由として、第一生命保険は、男子は「コロナ禍でリモートワークが進む中、自宅で仕事をするお父さん・お母さんの姿を目の当たりにし、会社員という職業を身近に感じた子どもが多かったのかもしれない」、女子は「コロナ禍のステイホーム期間に家族とお菓子作りを楽しんだ子どもたちも多かったのではないか」と推察しています。コロナ禍は子供の夢の変化にも影響を与えているようです。

コロナ禍でストレスを感じているのは日本の子供たちだけではありません。WEBサイト「新型コロナウイルスから子どもの心を守る。WHOから世界中の保護者たちへ」https://covid-19-act.jp/parenting-who/)では、WHO(世界保健機関)が世界の保護者に向けたアドバイスを発信しています『1対1の時間』『肯定的でいましょう』『新しい日課を作る』『悪い行い』『焦らずにストレスマネジメント』『新型コロナウイルスについて話をする』という6項目を分かりやすく解説しています。ご一読なさると何かの参考になるかもしれません。また、前述の国立成育医療研究センターでも、「第5回【コロナ×こどもアンケート】こどもが考えた『気持ちを楽にする23のくふう』」https://www.ncchd.go.jp/center/activity/covid19_kodomo/report/cxc05_coping20210525.pdf)を公開しています。子供たちがどのようにストレスを発散しているのかを知ることも、子供と接するときのヒントになるかもしれません。

 

トゥルース・アカデミーは例年通り、「夏休みサイエンス講座(夏期特別授業)」(http://truth-academy.co.jp/2021summer/)を開催し、科学・算数・工作・レゴ・ロボット・プログラミングと多彩な内容をラインナップして、子供たちが生き生きと楽しく学ぶ場を提供します。周りに興味のあるお友達がいらしたら、ぜひお誘いください。一人でも多くの子供たちに私共の授業を届けられたらと願っております。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第160回】宇宙のロマン ~ 白熱化する火星探査レース ~

~ 白熱化する火星探査レース ~

 

去る5/26の夜8時過ぎ、夜空を見上げた人は多かったのではないでしょうか?月面の全体に地球の影が落ちる「皆既月食」と、今年で地球に最も近く大きな満月となる「スーパームーン」とが重なる珍しい機会で、日本では24年ぶり。しかし、東京の空は曇って残念ながら見られませんでした。6/11、日本では見られませんでしたが、日の出と日食が重なり、三日月のように欠けた太陽が水平線に出現したのを北半球では見られたところもありました。5/26、観測史上最古となる124億年前の渦巻き構造を持つ銀河を発見したことを国立天文台などの研究グループが発表したと報じられました。

欠けた太陽の日の出

宇宙にロマンを感じる出来事は、天体ショーや新発見ばかりではありません。宇宙に行くことにもロマンを感じます。国際宇宙ステーション(ISS)で5カ月半の滞在を終えた野口聡一さんら4人の飛行士を乗せたスペースX社の宇宙船「クルードラゴン」が5/2地球に無事帰還しました。これに先立ち4/28には星出彰彦さんが日本人2人目のISS船長に就任。ロシアの宇宙機関ロスコスモスは5/13、ZOZOの創業者・前澤友作氏が12/8にソユーズ宇宙船でISSに出発する予定だと発表。アマゾンのCEOジェフ・ベゾス氏は6/7、自らが創業した宇宙開発企業ブルーオリジン初の有人宇宙船「ニューシェパード」に搭乗して7/20に宇宙旅行に出発する計画を発表し、弟のマーク・ベゾス氏も同乗し、5歳からの夢を叶えると言います。

そのような中、火星探査レースが過熱化しています。火星探査レースは1960年代からスタート。2004年に降り立って火星表面を移動しながら探査活動を始めた米国の「スピリット」と「オポチュニティ」というローバー(探査機)はインパクトがあり、当時教室でもレゴのロボットを使った「火星探査ミッション」という活動を行いました。その後、2007年に「フェニックス」、2012年の「キュリオシティ」が着陸し、火星の生命の痕跡や可能性の追求を続けています。

そして、2020年夏には、火星探査機が3機、打ち上げられました。NASAの「マーズ2020」と、アラブ首長国連邦(UAE)の「HOPE」と、中国の「天問1号」 です。マーズ2020は、今年2月に「パーサヴィアランス」ローバーを着陸させました。これには火星初のヘリコプターとなる「インジェニュイティ」が搭載されており、「パーサヴィアランス」が中継するコマンドを受信して自律飛行を行います。日本もJAXAの研究グループが火星探査用ドローンを設計し、2030年代に火星探査での実用化を目指すとのこと。NASA火星ヘリコプターの3倍以上の距離を飛べるそうです。中国「天問1号」は火星を回る軌道に探査機を投入し、火星に着陸させ、さらに今後、探査車で地表を走らせるという三つのミッションに一気に挑むとのこと。NASAですら大気圏突入から着陸までを「恐怖の7分間」と表現していますので、その技術の高さに驚かされます。UAE「HOPE」は昨年7月に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた三菱重工業のH2Aロケット42号機に積載されて軌道に投入された後、火星に向かいました。UAEは100年後の2117年までに、火星上に人類が居住できる最初の都市を建設し、国民の60万人を移住させるという壮大な計画を掲げています。日本の計画としては、「火星衛星探査ミッション」があり、2024年9月打ち上げ、2025年に火星周回軌道へ投入して火星衛星の擬周回軌道に入り、火星の月フォボスに於いてサンプルを採取、2029年9月に地球帰還する予定です。また、インドの2機目となる火星探査機MOM-2も2022年に計画されています。

パーサヴィアランス
インジェニュイティ

宇宙にロマンを感じる一方、軍事利用や鉱物などの資源開発、宇宙ゴミなどの問題が切実さを増しています。地球上で抱える問題を宇宙にまで拡大することのないよう、むしろ地球の問題を有効に解決できるよう、開発の方向性をかじ取りする必要があるようです。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第159回】未来都市とはどんな姿?

~ トヨタ「ウーブンシティ」プロジェクトがスタート  ~

昔から未来の夢の一つとして「未来都市」という言葉はよく使わ れていますが、最近は現実的な意味を帯びてこの言葉をよく聞きます。

SDGs未来都市』。これは、「SDGs達成のため積極的に取り組 む都市」として内閣府地方創生推進室に選定された都市のこと。 もともとは日本を低炭素化社会に転換するため、温室効果ガス の削減などに対する取り組みが評価された自治体が選出される 『環境モデル都市』(2008~)に、環境・超高齢化対応等に向け た、人間中心の新たな価値を創造する都市であるという要素が 加わり,『環境未来都市』に(2010)。そして、首都圏への人口の 一極集中を改善し、それぞれの地域で住みやすい環境を確保 することで、日本の活力維持につなげることを目的とした『地方創生』が言われ始めました(2014)。これらが複合されて『SDGs未来都市』の募集が始まったのです(2018~)。以来、SDGs未来都 市には毎年30前後の自治体が選定されています。また、SDGs未 来都市のなかでも特に先進的な取り組みをする都市は、『自治体SDGsモデル事業』として選定されます(年間10件)。

『SDGs未来都市』は、SDGsが達成される未来の創造に画期的 な取り組みをしている自治体を指しているので、「未来に出現する都市そのもの」ではありません。一方、「未来の都市そのものの姿を創造しよう」というのが、トヨタの未来の実証都市『ウーブンシティ(Woven City)』プロジェクトです。『ウーブンシティ』は、昨年1月7日、ラスベガスで開催される世界最大規模のエレクトロニクス 見本市「CES 2020」で発表されました。場所は、昨年末に閉鎖さ れたトヨタ東富士工場(静岡県裾野市)の跡地。東京ドーム約15個分に値する175エーカー(約70.8万m2)の範囲で街づくりになり ます。そして、今年2月23日に地鎮祭が行われ、造成工事が本格的に始まりました。2025年までに高齢者や子育て世代の家族 、研究者などを中心に360人程度、将来的にはトヨタ従業員を含む2千人以上が暮らす予定です。

ウーブン・シティのイメージ

このプロジェクトの目的は、ロボット・AI・自動運転・MaaS(バス、 電車、タクシーからライドシェア、シェアサイクルといったあらゆる 公共交通機関を、ITを用いてシームレスに結びつけ、人々が効 率よく、かつ便利に使えるようにするシステム)・パーソナルモビリ ティ・スマートホームといった先端技術を人々のリアルな生活環境の中に導入・検証出来る実験 都市を新たに作り上げること。まさに、スマートシティです。

「ウーブンシティ」は、日本語に直訳すると「編まれた街」。これは、①スピードが速い車両専 用の道として、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道 ②歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードの ような道 ③歩行者専用の公園内歩道のような道 の3種類の 道が、網の目のように織り込まれたデザインに由来しています。 地下にも物流用の自動運転車走行道を設置する計画。街の建物は主にカーボンニュートラルな木材で建設、屋根には太陽光発電パネルを設置するなど、環境との調和やサステイナビリティを前提とした街づくりが基本。住民には、室内用ロボットの他、AIで健康状態をチェックするなど、日々の暮らしの中に先端技術を取り入れます。また、街の中心や各ブロックには、住民同士のコミュニティ形成やその他様々な活動をサポートする 公園や広場も整備されるそうです。

自動運転EV「e-Palette(イーパレット)」

今のところ、パートナー企業としては,NTTが「スマートシティ プラットフォーム」を構築し、自動運転技術などを搭載したトヨタ の「CASE車」とNTTの5G(第5世代移動通信方式)、IoT(モノの インターネット)技術を融合。5月10日、ENEOSをコアパートナーに迎えて、水素エネルギーの利活用について検討を進める と発表。ウーブンシティ内に定置式の燃料電気(FC)発電機を設置し、ウーブンシティおよびその近隣における物流車両の燃料電池化の推進を目指すだけでなく、水素需要の実用化に向けての検証および需給管理システムの構築といった目的も兼ねているとのこと。既にトヨタとパナソニックは2019年、街づくり事業に関する新会社を設立しています。まさに日本企業が一丸となってこのプロジェクトを推進していくようです。これよって、 開発のスピードアップが期待されます。

今の子供たちが大人になった時、どのような街に住んでいるのでしょうか?どのような街を創造していくのでしょうか?

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第158回】水素燃料電池の可能性

~ 新しい時代を作るためのイノベーション ~

昨年から始まったコロナ禍は今年に入っても勢いが止まらず、変異株の蔓延が問題となっています。東京も再び日々感染者数の増加傾向になり、昨年の緊急事態宣言と同等かそれ以上のより厳しい措置が発動されつつあります。

思えば昨年世界ではロックダウンなどにより、経済活動がストップしました。その時皮肉にも「大気汚染が深刻なインドで数十年ぶりにヒマラヤが見えた」「イタリアのベネチアで緑色に濁っていた運河の水が透明になった」など、一時的に環境の改善が見られました。2019年9月23日にニューヨークで行われた国連気候行動サミットで、グレタ・トゥーンベリさんが「大絶滅を前にしているというのに、あなたたちはお金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり」「私はあなたたちを絶対に許さない」と抜本的な改革を起こさない大人を痛烈に批判したことも、コロナ禍が始まり今や遠い過去のことのように感じられるかもしれません。しかし、コロナ後、人類が取り組む最大の問題は『気候変動』であると言われています。昨年菅首相は就任後、2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする(2050年カーボンニュートラル)脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、バイデン新大統領となったアメリカは地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」に復帰したことを見ても、今や気候変動問題に取り組むことが国家戦略の重要な一つになっていることが分かります。

太陽光・風力・地熱・バイオマスなど様々なクリーンエネルギーが研究されています。ミドリムシ由来の油脂と使用済み食用油などでバイオディーゼル燃料を製造し、この4月からいすゞ自動車がシャトルバスで使用を開始するという事例もあります。中でも注目は水素燃料電池です。これは、「水素」と空気中の「酸素」を反応させて電気を起こす画期的な発電システムで、排出されるのは水だけです。原理は、簡単に言えば「水の電気分解」を逆にしたもの。水素の持つエネルギーの83%を理論的には電気エネルギーに変えることができる(ガソリンエンジンの最高効率が40%程度)、高いエネルギー効率をもつクリーンエネルギーです。最新の燃料電池車であるトヨタMIRAIは満タン状態で850kmを走ることができ、「水素ステーション」でタンクを満タンにするまで5分~10分程度で済むそうです。

水素化プラント外観

しかし、水素ステーションはまだ全国で130カ所強しかありません。大量の水素を入手する必要があります。水素は宇宙に存在する元素の約70%を占めるほど豊富にある物質ですが、単体では自然界にほとんど存在せず、地球上では水や化石燃料、有機化合物などの形で存在するので、そこから水素を取り出す必要があります。そこで、川崎重工がオーストラリアの「褐炭」という石炭の一種に目を付けました。現在国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「褐炭水素プロジェクト」も推進されています。褐炭は、石炭と同程度の埋蔵量があるとされ世界に広く分布していますが、水分量が50~60%と多いうえ、乾燥すると自然発火するという少々扱いづらい資源なので、輸送が難しく、採掘地付近で発電に使う程度しか用途がありません。ただ、非常に安価に入手できるため、もっとも経済的な水素製造方法の1つと言えます。日本の発電電力量の約4分の1は石炭火力であり、2019年COP25の会期中2度も温暖化対策に消極的な国に与える不名誉な賞「化石賞」を小泉環境大臣に与えるなど、国際社会から批判されてきましたが、石炭から水素というクリーンエネルギーを取り出すとは!と大変驚きました。中でも日本の総発電量の240年分の褐炭が眠るとされるビクトリア州で、水素の採掘から製造、液化、輸送、そして、国がロードマップのフェーズ3で掲げるCCS(CO2の回収・貯留)までをトータルで行う『CO2フリー水素チェーン』を、現地政府と一緒に推進しているとのことです。2019年世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の命名・進水式を行いました。水素を液化して800分の1の体積にして零下253度で日本へ運ぶそうです。

液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」進水式

やはり新しい社会を創り出すには「イノベーション(革新)」が必要です。革新的なものを生み出す能力のある人間に育つよう、多様なものの見方や考え方、創造力、問題解決力を育てるTruthの教育が資することができれば幸いです。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳